KOBE MEISTER

日本料理/柏木 直樹

昭和40年生 西宮市在住

勤務先:四季の彩 旅篭,兵庫栄養調理製菓専門学校

厳選した食材で仕上げた日本料理に物語り性をもたせ、対話によって絆が深まるメニューを得意とする。

素材によって多種類の包丁を使い分ける腕の冴えは、
生きた鰻を5秒で卸すことに極まる。
料理人の指導から専門学校の教授まで、多方面で後進の育成に努める。

もてなしの準備を整え、来客を待つ柏木さん。 関西の奥座敷、有馬温泉。調理の専門学校に通っていた柏木さんは19歳のとき、老舗旅館が建ち並ぶこの地でアルバイトを始めた。当時はバブルだったこともあり、忙しさは今以上のもの。「本当に毎日忙しかったですが、その分やることがたくさんあり、様々な仕事をさせてもらえて面白かったです」と当時を振り返る柏木さん。アルバイト先だった中の坊瑞苑で総料理長を務めていたのが、後に料理の鉄人として一世を風靡する大田忠道さん。大田さんとの出会いがきっかけとなり、日本料理の道を歩むこととなった。仕事は見て覚えるという時代だったため、率先して先輩の補佐をすることで、先輩から仕事を教わった。専門学校に通いながら17年間瑞苑で修行を積んだ後、料理旅館である旅篭へと移り、さらに腕を磨いていく。魚料理を得意とし、和包丁を巧みに扱う柏木さんは、生きた鰻を5秒ほどで卸す。氷で鰻を冬眠状態にさせてから行うが、衝撃や手の温もりで鰻はすぐに目を覚ましてしまう。目打ちを一発で差し込み、素早く包丁を入れなければならない。鰻を起こさず、いかに早く正確に作業を行えるかが勝負の分かれ目となる。
 季節感を重視する日本料理を語る上で外せない言葉がある。それは「旬」。その食材が食べ頃を迎える出盛りの時期だ。出始めの食材や初物をいただくのが「走り」。食材の時期が終わる頃にもう一度楽しむのが「名残」。「初鰹は女房を質に入れても食えという言葉がありますが、どの食材もやはり旬か、名残の方がよりおいしくいただけます」。例えば、柏木さんが得意とする鱧。鱧は6月7月が走りだが、一番おいしいのは名残である10月だという。夏の間よく餌を食べた鱧は、うんと肥えて脂ものっている。走りの鱧は値段も高いため量を手に入れるのは難しいが、名残の鱧は多く手に入れることができる。名残の鱧をふんだんに使った鍋は絶品だ。「鱧は皮のところにコラーゲンが多いので、風邪の予防にもなります。初物を食べると寿命が延びると言いますが、おいしい名残をたくさん食べても長生きできそうですよ」と柏木さんは笑顔で語った。近年は気候変動で四季がなくなってきているからこそ、食べ時を大切に料理でしっかり四季を伝えたいと考えている。
より抜きの食材を調理した創意工夫のおせち料理 「料理は人と人とを繋ぐもの」と教える柏木さんは、老人ホームにおける食の改善にも意欲的に取り組み、現場で働く料理人の指導にも当たっている。老人ホームで働く調理師は定年後の元コックや板前が多く、彼らがもてなしたお客様の世代が今ホームの利用者となっている。「利用者さんたちにとってのごちそうは、調理師たちが現役時代にホテルや旅館で出していた料理なのです」。旅館のように紅葉や銀杏をあしらった前菜、ホテルで出されていたようなフィレステーキ。月に一度でもこういった料理を出すことで、利用者の思い出が蘇り、料理を通して対話が生まれる。一つのごちそうが過去の記憶を鮮やかに呼び覚まし、お腹だけでなく心も満たしていく。
 柏木さんは旅篭の調理場顧問、専門学校の教授を務めるだけでなく、一般の方を対象にした講習会も開いている。子どもたちには地産地消をテーマにした講習会を行い、主婦を始めとする大人たちには伝統のおせち料理を指南するなど、柏木さんの指導はあらゆる年代に及ぶ。また、各地の食材を活かした名物鍋を考案し、新聞を通じて発信している。まさに八面六臂の柏木さんだ。

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