KOBE MEISTER

和菓子/岩﨑 典治

昭和31年生 東灘区在住

勤務先:常盤堂

和菓子の心を伝える役割を自覚し、伝統の技と味を守り抜く。
日本の四季を実感する和菓子の魅力を社会に訴える講座活動にも意欲的。

古来の技法を継承する一方で、葛まんじゅうの冷凍保存法を確立。
「神戸葛まんじゅう」と命名、和菓子における神戸ブランドを実現。

岩﨑 典治さん 慶応4年(1868年)創業の老舗、「常盤堂」。4代目経営者の父、榮次さんの和菓子一筋の生き様を見て、自分もこの道を継承するのが当然と心得て育った。大学卒業後、父に弟子入り。「和菓子には受け継ぐべき技がたくさんあることを改めて実感しました」と、岩﨑さんは振り返る。日本の四季に即した伝統製法を修得するだけで精一杯の歳月が流れた。父や祖父が代々守り抜いてきた味を繋ぐことの大切さを知る中で、和菓子が伝える日本の心を徐々に体得できるようになった。
 常盤堂を代表する「御影 雪月花」は、創業以来変わらぬ製法で今に引き継がれている。適度に弾力のある最中種に、備中大納言の餡を挟んだ銘菓。雪、月、花をそれぞれにかたどっており、目も楽しませてくれる。季節を愛でる大和ごころを表現したメッセージ性の高い最中となっている。同様に、先々代の榮太郎さんが「庵月」と命名した求肥入りの最中も、店の人気商品となっている。創業当時は神戸駅の近くに店舗があったが、戦争で街が被害を受けたときに全焼。戦後に東灘区へ本店を移して再開し、現在に至っている。
 「四季の移ろいを表現し、旬を味わっていただくのが和菓子です。世の人々が和菓子から自然を感じ、心豊かになり、安穏に、安楽に、そして幸せに生きていただけるよう私は願っています。聖徳太子の有名な言葉、和を以て貴しと為す。この精神こそ和菓子を生業にする者の坐右の銘だと思います」。和菓子を前に話に花が咲き、心と心が通い、絆が深まる。和菓子は茶席にもかかせない存在だが、茶道には「一期一会」という言葉がある。これは「茶道に臨む際には、その人との出会いを一度きりと考え、相手に最善を尽くす」という意味だ。「私も一期一会の精神で、和菓子を通じて人とお付き合いをさせていただいています」と語る岩﨑さんは、一般の方々を対象にした「和菓子講座」も実施している。和菓子につけられた名前の由来や意味を解説する他、岩﨑さんが得意とする「はさみ菊」など伝統的な技法も指導している。「はさみ菊」とは、練り切りと呼ばれる生地に和菓子用のハサミで切り込みを入れ、細かい花びらを1枚ずつ作り、菊の花を再現するものだ。「もっと気軽に楽しく和菓子と親しんでほしいという気持ちで、皆さんに面白おかしく指南しています」。
見事に仕上がったはさみ菊 日本の歴史と共に完成された和菓子の魅力を伝える一方で、今の時代に合わせた技法も確立している。日持ちがせず、冷やすと硬くなってしまうので、従来保存が難しいとされてきた葛。岩﨑さんは古くからの技法に工夫を施し、冷凍して日持ちさせることに成功した。葛と言えばプリッとした食感で、涼しげな見た目をした夏の定番菓子、葛まんじゅう。冷凍保存ができるようになったことで、猛暑に見舞われる近年の夏でも、その状態を保持しやすくなった。葛は古くから日本で親しまれている食材で、その名は万葉集でも多数見受けられる。京都や奈良のイメージが強い葛まんじゅうだが、自分の生まれ育った神戸に愛着を持っていた岩﨑さんは、「神戸 葛まんじゅう」と命名。神戸の和菓子として位置づけた。有名な吉野葛など厳選した材料で作った葛まんじゅうは、格別の趣がある一品となっている。
 「季節や風情を感じる心。その心という目に見えないものを和菓子として見てもらう。それが私の務めです」と、岩﨑さんは笑顔を見せた。

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