KOBE MEISTER

表具/根津 佳弘

昭和41年生 灘区在住

勤務先:根津真美堂

掛軸、屏風、衝立、額装から土壁の和紙腰張りまで、表具内装すべてに精通

伝統の技術を守り抜く一方で、西洋刺繍を軸装のほか、着物を屏風に仕立て直したりなど現代生活にマッチさせる才能の冴えを見せる。

根津 佳弘さん ものごころついたら、襖や障子を貼る糊の臭いのなかで暮らしていた。小学生になって学校から帰ると、黙々と仕事を続ける父の姿があった。大きくなったら自分もその仕事をするものと思い、文集に「襖屋さんになりたい」と書いた。
昭和57年、中学校卒業と同時に、父・彰さんに弟子入り。夜間高校に通いながら、技術を修得の日々。祖父が創業した表具店の三代目となる佳弘さんに、父は自分自身が鍛えられたように基礎を徹底的に教え込んだ。10数年にして彰さんがこの世を去るが、父は見事に業界全般に通じる技術を息子に譲り渡していた。「プロの世界でも分野によって得手不得手がありますが、私はどのような分野の仕事依頼があってもこなせるよう日々努力しています」 息子を甘やかせることなく、厳しく基礎技術を叩き込んでくれた亡き父に改めて感謝する佳弘さんだ。
表具の写真  表具は大陸から伝来した技術で、日本の風土に培われて発展してきた。茶道における茶軸はもちろん、茶室の土壁に和紙を腰張りする難しい技術も根津さんは得意とする。その応用は本建築の民家において、掃除器が当たっても壁が傷まないよう補強の意味で今も需要がある。「真壁に和紙を貼ることによって和紙が乾いたときに壁を剥がしてしまう恐れがあるので、土の具合を観察しながら、神経を研ぎ澄まして慎重に作業をします」 そんな難しい技術を粛々とこなし、腰張りをデザインとして和室の価値を高める。
 昔ながらの技術を頑固に守り抜く一方で、現代人のライフスタイルにマッチした創意工夫も根津さんらしい一面だ。着物の振袖の柄を活かして屏風に仕上げた作品がある。「親御さんが心込めてあつらえて下さった記念の振袖に新しい命を吹き込みました。布を下張りの紙になじませて、乾燥した時点での出来上がりを計算しながら刷毛を使い分けて作業を進めるのがコツです」 水刷毛、打ち刷毛、撫で刷毛など微妙に毛先の長さや柔らかさが異なる裏打ち用の刷毛を素材に応じて使い分けて、作品に張りをもたらせる。
 昔の貴重な作品の修復を寺社からの依頼でこなす一方で、一般女性の趣味に協力してフランス刺繍を軸装や額装にしたりなど伝統の技法をさりげなく、現代生活に役立てるのも根津さんの得意わざだ。「刺繍は糸の重なる部分の厚みがあるので、裏打ち用の紙の裏側から刷毛で叩いて素材を密着させて一枚の紙のように見せるのです」
 いかなる状況にも対応するセンスの良さが評価されて、書家や画家が展覧会用の裏打ちや額装を依頼してくることも多い。少年の頃の志を完璧に実現した根津さんの表具人生は、確かな技術に人の心を裏打ちした結果と言える。

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