KOBE MEISTER

紳士服 / 松本 一彌

昭和17年生 東灘区在住

勤務先:テーラーbibi

紳士服の縫製において、立体感のある美しいシルエットに仕上げるために独自の創意工夫を凝らす。その効果として、着易く、型崩れせず、自然に背筋がしゃんと伸び、笑顔になれるような製品づくりに精進する。

苦しみを喜びに変えて自分が編み出した技術を幅広く世間の心ある人たちが受け継いでほしい、と門戸を開く。

松本一彌さんの写真  愛媛県の生まれで、父・秀雄さんが洋服の仕立てをする姿を見て育った。父と同じ神戸で洋服の修行に入る。複数の店で腕を磨き、昭和48年、神戸市灘区で独立開業した。その後、東灘区に移り、37年間の業暦を積んで今日に至る。これまでの道のりを振り返って「創意工夫を重ねたからこそ今がありますね」と語る。その最たるものは、袖を通した時に着やすく型崩れしない縫製技術を身に付けたこと。自らを苦しみのなかに追いやって編み出した技術が、顧客の背筋をしゃんと伸ばし、笑顔に変えるのを見ると苦労が報われる思いがした。
 特に松本さんの技能が優秀と評価されるようになったポイントは次ぎの3点に要約される。
 1、芯と表地を一枚にする工程で、一晩置く。そうすることによってアイロン処理の熱が消え、シワとビリ(型崩れ)がなくなる。2、襟付けに際して、基本図形を基準に採寸し、そこから個人差の修正線を描いていく。3、袖付けの時、袖をアームホールの形に合わせるために、紐を使って袖の大きさを決める。これによってシワのない腕通しのよい袖になる。

松本さんの作品「全日本技能グランプリ大会で優勝」した時の写真  こういった努力が実って、平成17年、全日本技能グランプリ大会で一位を獲得した。「ダブル六つボタンで挑戦しましたが、制限時間内でいかに人台に美しく合わせるかが勝負でしたね」と自らを分析する。そのために「タイムスケジュールカード」を作り、自分自身をコントールするという松本さんならではの工夫も奏功しての優勝だった。
 日々の業務においては、オーダーごとに顧客の体型に合わせ、その人のために美しいシルエットにするにはどうすればよいかを第一に考え、洋裁用具面でも独自の工夫を凝らしている。例えば、袖口の崩れを防止する「変形袖マン」と呼ぶ用具を手作りしたり、一回で長い距離のアイロン掛けを可能にすると共にクセ取りができる「アイロン平台」を考案するなど、プロとしてどこまでも技術を追求する姿勢を貫いている。
 数々の困難を克服して自分が身に付けた技術を惜しみなく後進にも積極的に伝授するなど業界への貢献度も高い。職業訓練指導員の資格を有して、洋服技術講習会の講師をつとめ、やりながら教えるという松本流体験実習をモットーに、希望に応じて自宅アトリエに招いてでもハイレベルな技術者を育てあげるほどの熱心さだ。また、神戸市ものづくり職人大学講師として、自分の持てる縫製技術を社会一般にも伝授して業界の再認識を促すほか、「ひょうごの匠」キャラバン隊にも参加し、中学校の生徒を対象に職業への関心を持ってもらう活動も行っている。
 オーソドックスな紳士服の伝統の素晴らしさを守り抜く一方で、大島紬などの和服生地をジャケットに作り直すなど斬新なアイデアも持ち合わせており、この仕事を自分の生かしどころと心得て、苦労も楽しみのひとつという姿勢をにじみ出させている。父親譲りの才能を花開かせた二代目が三代目についてどのように思うかを聞いてみた。長男が大学で教鞭を執っている事実を踏まえて「私の技術を世間の幅広い人たちが引き継いで下されば、それで本望です」と柔和な物腰の松本さんだ。

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