KOBE MEISTER

旋盤工 / 田 吉和

昭和24年生 垂水区在住

 

NC旋盤と汎用旋盤を使い分けてミクロン単位の精密さで、神業ともいうべき技量を発揮。

産業機械部品から試験片加工はもとより、最先端医療器具まで。

田吉和さんの写真  昭和24年、神戸市兵庫区の下町で生まれた。周辺の鉄工所で大人の男たちが旋盤や溶接で仕事する姿を見て育った。いつしか、自分自身も旋盤を操る仕事に就いていた。特に精密さを要求される難易度の高い仕事で30年を越える実績を残した後、その実力が評価されて、神戸のシミズテックでその腕をふるうこととなった。「飛行機の部品や新幹線の部品など数えきれないほどのものを手がけてきましたが、いずれもどんな完成品に組み込まれていくのか自分の目で見ることが出来ないのが宿命です」と、自分の置かれた立場を語る。なるほど、旋盤工とはそのような仕事なのである。しかしながら、田さんの手がける部品の精密さが大きくものを言うことだけは確か。田さんの仕事がきっちりしていなければ、その製品は先に進めず、完成品に至らない。
 42年におよぶ業界生活の間に、旋盤そのものが進化した。「今ではNC旋盤と言いまして、コンピュータ制御されている旋盤機械が普及しています。ですが、汎用旋盤と言って手で動かす旋盤でなければ出来ない仕事もあるのです」。シミズテックでは医療用具の製作が社会的にも評価されている。その難しい技術を支えている重要キーパーソンが田さんなのだ。チタン合金を素材に人工骨も作ったりする。ニッケル、クロームの耐熱鋼・インコネルやコバルトなどを用いて、整形外科手術に欠かせぬ医療具や精密な部品加工も田さんのお手のものだ。
 新しい技術を否定するものではなく、むしろ田さんは積極的にチャレンジする。例えば、異形材を掴める特殊チャックを考案し、それまで汎用旋盤でしか出来なかった異形品の切削をNC化することにも成功を収めている。新製品の開発時に欠かせぬ試験片の複雑このうえもない注文にも顔色一つ変えることなく、応える。「田さんには出来ないという言葉はない」と言われるほど、チャレンジ精神は旺盛である。その技術の最たるものは、何と言っても直径が3ミリほどの部品や、平行部直径0.5ミリの微少引張試験片などを見事にやってのけることだろう。通常の感覚では、細工不可能と思われる素材を大きな旋盤の回転歯で1ミリ以下の精密さで丸く削っていくさまはまさに神の手と言っても過言ではない。「きわめて緻密なコンピュータ機器の部品の強度を調べるためにこれが必要と言われれば、ただやるしかない。そこに私の存在理由があるわけですから」と、淡々と語る。精密さが要求される部品のあれこれ。二つとして同じものを作らない。奇をてらうことは一切なく、黙々と旋盤に向かい、研究開発の試作品の製造においても期待通りの働きで応える。まさに、職人中のプロ職人がここにいる。
 「本当はね、なれるものなら板前になりたかったんですよ」と笑うその顔は少年がそのまま大人になったようだ。何千何万を超える部品を世に送り出した末に、昨今特に医療器具の分野でその真価を発揮する田さんは、神戸市が推進する医療産業都市構想に呼応して最先端医療器具の開発面でも不可欠の存在となっている。「人の命を支えるジャンルで、私の技術が役に立つことはやり甲斐のあることです」と、今にしてこの仕事が自分に与えられた天職であったのかと改めて思う田さんである。

ページの先頭へ戻る