KOBE MEISTER

表具/松田 伸一 

昭和24年生 兵庫区在住

勤務先:大﨑春廣堂

日本の伝統ある表具の仕事のなかでも、京風を松田さんは得意とする。

作品を活かしてこそ表装の評価が。禅問答のような仕事ぶり

松田伸一さん 先代の大﨑廣武さんが京都で修行を積んだのちに神戸に工房を構え、その娘婿となった松田さんが二代目を継承した。「江戸表具が力強さを個性とするなら、京表具は公家好みの雅が信条でしょう」。 松田さんは岡山県の出身で、結婚を機に義父の仕事を助けるようになり、自らも腕を上げていった。震災の年に先代が病気で亡くなった跡を継承したが、翌平成8年に神戸市優秀技能者賞を受賞したことが義父への供養となった。
 掛軸、額、屏風、衝立、巻物、帖など多岐に渡る仕事のいずれにおいても、「見た瞬間にこれはいい表装だと言われないような仕事をすること」と、まるで禅問答のような言葉を発する。その心は「絵画であれ、書であれ、作品を活かすための表装でなければ意味がない。いい字ですね、とか絵を誉められた時、いや、表装のおかげです、とそこで初めて表装に気づいてもらうような仕事をすることが真に上手な職人だと心得ています」。 なるほど、表装とはそういうものなのか、と改めて納得。 他人様の作品を活かしてのちに初めて己が生きる。竹を描いた水墨画の袋表具に淡い萌黄色を用い、滝を描いた作品には薄い水色の袋表具をあしらうなどの繊細さは当たり前。 「技術にセンスを裏打ちするのが命です」。 発注の段階ではどんな仕上がりになるのかわからないものが、仕上がった時、立派に生まれ変わった出来映えに驚く客の顔を見るのが、いちばんの喜びだそう。 袋表具の写真晴れやかな新作の表装の一方で、和紙や絹のシミ抜きのような地味な仕事もこなす。 作品本来の絵や書の色が流れてしまうことのないよう、色止めを施したうえで、作品の描かれた時代を考慮し、シミを抜いていく。きれいになりすぎて不自然にならぬよう、あくまでも自然さを大切にする。このジャンルもまた、手を加えたことを感じさせないところがミソ。表装技術の行き着くところは修復技術にあると言われるなかで、松田さんは特にこの技術に優れており、裏張りをはがしたものを洗いにかけて、破れ補修を施したうえ、新品同様に生き返らせるノウハウにかけてはまさに、この人の右に出る者がいないとさえ評価されるほど。
 また、かな書作品の表装に関しては、意匠を施した仕立を得意とし、作品に異なる料紙(かな書き作品用の加工紙)を用いて、重ね貼りするなど華やかさや見栄えの良さを引き出すテクニックの冴えも業界随一。 和の情趣あふれる茶掛製作を得意とする一方で、近年の洋風化に対処して、洋間にマッチする額装の工夫においても豊かな創造性をいかんなく発揮するなど幅広い表装技術に精通して、独自の領域を築き上げている。

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